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本システムは、上記のようにタンパク質結晶構造解析実験において、研究者本人が実験に来られない場合を想定して作成されているものであるが、そのソフトウェアは他にも多くの副次的な効果を持っている。 |
(1)他の放射光実験の支援 |
研究者本人がSPring-8に実験に来られないケースは、どの種類の放射光実験においても多い。特に主たる研究者が教授の場合には、学内の業務により実験に参加できないことが多く、助手や大学院学生に実験を任せることになる。このようなケースでも、大学から実験データを閲覧し、ビームラインの実験者と会話を行うことによって、効率良いデータ収集が行える。本システムは、画像データの閲覧に関しては汎用的な設計になっているため、X線イメージングやcomputed
tomography (CT)のデータ収集の場合にも有用である。
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(2)自動測定の際の実験のモニタリング |
SPring-8の利用技術の向上には、多くの測定を自動的に行うシステム、特に試料を自動的に交換して人手を介することなく実験を連続して行うシステムの開発が不可欠である。これは、タンパク質結晶構造解析に限らず、他の多くの分析的な手法に共通する課題である。自動測定においては、ビームラインは無人となるケースが多いと予想されるので、実験の進行状況をモニターするシステムは重要である。ファイアウォールの存在によってビームラインへの外部からのアクセスが制限されている状況では、これは何らかの形でのビームラインから外部へのデータ転送によるしかなく、本システムの技術が生かされると思われる。
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(3)データ収集中におけるデータの自動転送 |
本システムは、自動データ収集中に得られたデータを閲覧する目的で画像データをファイアウォール外のWebサーバーに自動転送しているが、これは得られたデータを逐一ファイアウォール外のデータサーバーに転送できることを意味している。一般にSPring-8で得られる画像データは2000x2000ピクセルや4000x4000ピクセルといった大きなものが多く、自動データ収集で得られるデータ量も数10ギガバイトに達する。これを実験終了後にハードディスクにコピーしたり、ネットワークを用いて転送することは時間の無駄であり、後続の実験の妨げとなるので好ましくない。データ収集中に自動的にファイル転送を行うことが、もっとも効率の良い方法である。画像検出器において、画像データを書き出す先のディレクトリとしてネットワーク上のディスクを指定することは可能であるが、実験で得られる一次データを直にネットワークを介して書き込んで保存することには研究者の間に多くの危惧があり、一次データはビームラインの計算機のハードディスクに書き込み、それを外部のディスクサーバーに転送する本システムの形態が最も効率的である。
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(4)データの自動転送による、オンラインデータ解析の可能性 |
放射光実験で得られる実験データの中には、全データセットが得られなくても解析を開始できるものが少なくない。タンパク質結晶構造解析実験においても、最も初期のデータ処理である反射の指数付けや積分強度測定は、必ずしも実験終了まで待つ必要はない。
また、CT実験においては断層像の再構成計算は多くの時間を要するが、計算は画像が得られるたびに逐次的に行うことが可能で、実験終了と同時に試料の三次元構造が得られることになる。データ処理のための計算機をビームラインに持つことは現実的でなく、データを一旦ファイアウォールの外のディスクサーバーに転送することが必要だが、これは本プロジェクトのソフトウェアで可能となっている。このようなデータ処理は分散した複数の計算機を用いて行うことが可能で、リアルタイムのグリッドコンピューティングを適用することが可能となる。効率の良い逐次的データ転送システムと共役したグリッドソフトウェアを開発することで、オンラインデータ解析が可能となるであろう。 |